書籍・雑誌

2013年10月15日 (火)

忘れられない二冊  「フラニーとゾーイー」、「夜と霧」

息子からお薦めの本を訊かれました。book

最近ちっとも本を読まないひつじ。despair

それでも面白そうな本に出会うとつい手元に置きたくなって、そのうち読むからと思いながら積ん読が増えてどうしようもない状態です。shock

そんなわけで、遠い記憶を紐解いて薦めたのが下の二冊。

ひとつはサリンジャーの「フラニーとゾーイー」。 グラースサーガと云われたグラース家の兄弟姉妹たちを主人公にした物語のひとつです。

有名な「ライ麦畑で捕まえて」を高校時代に読んだとき、どこが面白いかさっぱりわからず、その後サリンジャーに近づかないでいたのですが、ある日手に取った「フラニーとゾーイー」をきっかけにグラースサーガにはまりました。

知能指数の高いグラース家の子供たちは、子供ばかりを回答者にしたクイズ番組で有名になり、長じてそれぞれの道に進みます。

容姿にも恵まれ、有名女子大の学生で、アイヴィーリーグの大学に通う素敵な彼もいるフラニー。  誰もが羨む輝かしい未来が約束されています。

ところが一冊の小さな本をきっかけに彼女は自身の環境に疑問を持ち(もともと人と違った教育を受けてきた彼女にはすでにその萌芽があったのですが)、人間不信から自宅に引きこもってしまいます。

そんな妹を心配し、彼女の疑問と人間不信から最終的に救ったのが役者をしている兄のゾーイーです。 それも初めからうまくいったのではなく、彼自身の越し方を探ることにもなるのですが。

中身の濃さに反比例して薄い本です。  野崎孝氏の訳で新潮文庫から出ています。

思わず抱きしめたくなる珠玉の一冊です。think

そしてもうひとつ。 フランクル著、「夜と霧」です。

「夜と霧」というのは邦題で、ナチスドイツによる政治犯検挙のための政令と同じ名ですが、夜陰に乗じ、霧にまぎれて人々が連れ去られ消された歴史的暗部を暗喩してつけられた邦題だそうです。

こちらはみすず書房から霜山徳爾氏の訳書がロングセラーで読みつがれています。

最近若い人向きに同じくみすず書房から池田香代子氏訳の新版が出ているそうです。

たまたま心理学の課題書だったので読みましたが、そうでなければ手に取ることがためらわれた重く暗い内容に思える本でした。

かの有名なナチスの強制収容所アウシュヴィッツから奇跡的に生還した心理学者の記録です。

収容所経験を振り返って検証し、アウシュヴィッツに収容され、そこで日を送り、やがてそこを出て普通の日常に戻った現在までの心理状態、さらにその時の再来を怖れる「収容所症候群」を段階的に分析した貴重な記録です。

その忌むべき収容所体験に向き合い、冷静に分析することによってフランクルは自身の再生をはかったのではないでしょうか。 

淡々と書き綴られているように見えますが大変に辛い作業だったことでしょう。

ただ、どんなに過酷な状況の中でも美しいものを渇望する心や、目立たなくとも、人をいたわる行為のあったことは読んでいる者の心に染み渡ります。

ぜひとも多くの方に読んでいただきたい一冊です。aries

2012年10月 2日 (火)

トンボソのお姫様

先日韓国の民話「ねぎを植えたひと」を掲載したら、「いろんな話を知っているんですね。」と言われたひつじ。 おだてられて木に登り、もうひとつ紹介してしまいます。coldsweats01

年の離れた兄姉を持つひつじ。 小さい頃、二人が選んだ本を読んでいました。 主に岩波少年少女文庫から選ばれたお話の数々は、大人が読んでも面白い変わったお話ばかり。book

今日はそのひとつ、フランス系カナダ移民の間で語り継がれたという「トンボソのお姫様」をご紹介しましょう。virgo

昔トンボソという国に、それはそれは美しいお姫様がいたそうです。 遠く離れた国々まで噂が伝えられるほど美しかったのでしょう、父王を亡くしたばかりのジャックというある国の王子の耳にもその噂は届いていました。ear

ジャックは3人兄弟の末っ子で、父王は3人の王子達に平等に宝物を遺して亡くなったのでした。shine

一番上の兄には使っても使っても空にならない財布を。(いいなあ) 二番目の兄には吹き口の片側を吹くと一連隊の兵士が現れ、もう片方の口を吹くと瞬く間に兵士達を収納するラッパを。 そして末の王子には、それを身につけて命令すればどこへでもあっという間に連れて行ってくれるベルトを。dollar

くだんのベルトを身につけたジャックは、早速トンボソのお姫様の部屋へ、お姫様の顔を拝むために飛んでいきました。

突然部屋に現れた若者に驚いたお姫様。 彼女にジャック王子はにこやかに挨拶をし、どうやってここへやって来たかを説明します。

彼のベルトに興味を持ったお姫様は、蕩けるような笑顔で彼を骨抜きにしてまんまとベルトをせしめてしまいます。 そして王様の部屋に行き、衛兵達に彼をたたき出させてしまったのです。 衛兵達に散々叩きのめされた彼は、痛む身体を引きずって、なんとか国に帰るのですが、宝物を取られた彼を兄達はひどくののしります。crying

何とかベルトを取り返したいジャック、上の兄を拝み倒して空にならない財布を借り、トンボソの国へとって返します。  ところが、情けないことにその財布も取られてしまうのです。 またも兄達にののしられるのですが、最後の手段とばかり、二番目の兄のラッパを手にふたつの宝物を取り返しに出かけます。run

・・・ところが、ほんとに情けないことに、またまたお姫様の蕩けるような笑顔に腰砕けとなってラッパまで取上げられてしまうのです。 この間、性格の悪い小悪魔なお姫様は、いつも大好きなりんごを食べ続けていますが、このりんごが物語の大きな鍵となります。apple

だいたい宝物を貸す兄達も兄達ですが、三度も篭絡されるジャック王子には子供でも愛想がつきます。 まあ、お話ではここまで徹底的にへこまされないと駄目なのかもしれません。think

さて、ラッパから出て来た兵隊たちに何度も何度も踏まれて息も絶え絶えに放り出されたジャック君の目に、たわわに実るみずみずしいすももが飛び込んできます。 それは小川のふちに植えられた木に成っていました。  せめて最後にあのすももが食べたい、どうせ国に帰れても怒った兄達に殺されてしまうかもしれない。  地面を這って、何とかして木の根元にたどりつき、重くしなった枝から実をひとつとって食べました。  ああ、なんて美味しいすももでしょう。 思わずひとつ二つと食べ進んでしまいます。 でも、一口食べるごとに何故か顔が重くなっていくのです。  川面に映った自分の顔を見たジャックは驚きました。 なんと、ピノキオのように鼻が重く長くなっていたのです。shock

「なんてことだ、こんな顔のままで死ぬことになるのか。」  ・・・と、そのとき、すももの隣にリンゴの木があることに気がつきました。  こちらにも赤い美味しそうなりんごが成っています。bell

「毒をくらわば皿までだ。 どうなろうと、あのリンゴを食べるまでは死ねない。」

すももとりんごが同時期になっているというのも不思議ですが、もう死にそうなくせにリンゴを食べようと思うジャック君も不思議です。  とにかくそこでりんごを食べてみると。  あ~ら不思議! ひと口食べるごとに鼻が短くなっていくのです。happy02

もとの鼻にもどったところで食べやんだジャック。 この経験をもとに一計を案じます。

そうです。 スモモ売りに化けてお城の窓の下で声高らかに売り歩くのです。 その声を聞いた果物好きのお姫様、下女に命じて買いに行かせます。

もう、お分かりですね。  鼻が伸びて、誰にも言えず困ったお姫様に医者のフリをして面会し、リンゴをえさに見事すべての宝物を取り返すのです。 今度こそお姫様の笑顔に騙されずに。

そして、このお話にはひとつのオチがあるのです。  ジャックはしっかり復讐します。 同時に、自分のような犠牲者がこの先出さないように、お姫様の鼻がもとどおりになる一歩手前でりんごをあげるのをやめてしまったのです。 なかなか残酷な結末です。coldsweats02

このお話を読んだ小さいひつじは思いました。 あんまり人に意地悪をすると復讐されて取り返しのつかないことになるかも知れないと。aries

2012年6月 6日 (水)

チェーザレ

2005年からずっと講談社のモーニングに連載されている漫画で、ルネッサンス期に華々しく活躍した、美しく冷酷で並々ならぬ野望と政治力を備えたチェーザレ・ボルジアの物語です。book

イタリア語でチェーザレ、ラテン語でカエサル(シーザー)という名を持つ彼のイメージは、今まで残忍で放蕩な性格と後世に伝えられてきました。ear

ところが、この漫画を監修するダンテ学者の原基晶氏が邦訳されていないサチェルドーテ版の「チェーザレ・ボルジア伝」をもとに新しいチェーザレ像を構築したのです。  作者の総領冬実氏も従来のチェーザレ像に疑問を抱き、放蕩の限りを尽くしたといわれているチェーザレが家臣から信頼され、民衆にも愛されていたのはなぜかという矛盾から今回の史実検証に至ったようです。think

若きチェーザレはラテン語、イタリア語、スペイン語、フランス語を話し、教会法、市民法両方の学位を取得した非常に優秀な人間であり、スペイン貴族の出身、枢機卿の庶子として16歳ですでに政治的な役割を担わされていた英才教育の申し子だったとこの物語には綴られています。coldsweats02

総領冬実氏が「ボーイフレンド」で小学館漫画賞受賞(1987年)の頃から、その素晴らしい画力とストーリー構築力に虜になっていたひつじ。happy02

絵も美しく、もうもう、この「チェーザレ」にノックアウトされてしまいました!

作中に出てくるベルトひとつとっても膨大な時代考証の結果、ということが見てとれて頭が深ーく下がります。  それをひとつひとつ書き分けるなんて凄すぎるsign01

ぜひぜひ一度手にとってご覧ください。aries

2012年2月19日 (日)

「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」

昨年「プラハ1968」写真展を観に行った折、写真美術館のショップで買った本です。

写真展と同じく友人のYさんに勧められて手に取りました。  あれからずっと積読(つんどく)だったこの本を最近になって読み始め、そのまま憑かれたように読み進んで、あっという間に読み終えました。

1960年生まれの米原万里さん(ロシア語会議通訳でエッセイスト)が1960年~64年に過ごしたプラハのソビエト学校で知り合った友人の話、そしてその後の邂逅について綴ったものです。

軍事政権の弾圧を逃れてチェコに亡命したギリシャ人共産主義者を父に持つリッツァ、ルーマニア労働者党の代表としてチェコに派遣されていた父を持つアーニャ、公使としてプラハに滞在していたユーゴスラビア人の父を持つヤースナの3人の物語が、その骨格を成しています。

その後プラハの春が終わりを告げ、ユーゴスラビアの巨星チトー大統領が亡くなり、ルーマニアの独裁者チャウシェスクの政権が崩れ去り、果ては信じられないことながらベルリンの壁が壊されてソ連の社会主義体制が崩壊しました。  ソ連の社会主義にひずみが見え始めてはいましたが、こんなに早く東西の壁が取り壊される日がくるなど多くの人が予想しなかったと思います。

この世界の急変は、ソビエト学校時代の友人達のその後にも大きな影響を及ぼします。

あまり深く触れると、この本の魅力を削いでしまいそうです。  まずは手にとって読んでごらんください。  政治的な背景を書きながらも平易で魅力ある文章は、次のページをめくるのももどかしいほど先へ先へとうながします。

とにかくすごく面白い。  そして考えさせられます。aries

2010年3月18日 (木)

アガサ・クリスティー

皆様ご存知アガサ・クリスティー。 この作家の意外な三部作(と言われています)に出会いました。confident

それはミステリーの女王で知られる彼女が書いた非ミステリーで、40代から60代にかけてメアリ・ウェストマコット名義で出版されている本です。book

ひと月ほど前に「娘は娘」という小説の書評に出会って以来、喉の渇きを癒すように次々と次作を追い求めては読み継ぎました。 その読後に残る重量感は、クリスティーの非凡な才能への想いを強くしたのです。think

読んだ順に内容を要約すると次の通りですが、書かれた順は「愛の重さ」が最後のようです。

まず、「娘は娘」。  若くして未亡人になった主人公が一心に愛情を注いで育てた娘との葛藤を描いています。boutique

「愛の重さ」。  両親にあまり顧みられなかった姉が、火事の中から幼い妹を助け出した日を境に、妹への愛情にのめりこんでいく様を描いています。(後半、展開を急ぎすぎるきらいがありますが)virgo

そして「春にして君を離れ」。  自身を完璧な妻、母と思い込んだ主人公が、旅先で思いがけず足止めされた数日間に自分と向き合い、本来の自分に愕然とする物語です。train

と、まあ味も素っ気も無い要約ですが、どんなに言葉を尽くしても、ひつじの非才では到底この本の面白さ、すごさをお伝えできないので実際にお読みいただくことをお勧めします。sweat01

どの作品もいわば叙情小説です。 でも、心理描写の克明さ、現代に通じる考え方の斬新さからクリスティーの明晰さがうかがえます。 読み手である私の心の内を見透かされているようでこわい小説です。 人の人生(たとえそれが子供や配偶者、兄弟姉妹のそれであっても)に立ち入ってはいけない。 すべての作品に共通の命題です。 あの時代にこの見識を持って生きるのは、いささか生きにくかったのではないでしょうか。coldsweats02

奇しくも今年は、クリスティー生誕120周年。 昨日から東京国際フォーラム、ガラス棟地下一階の相田みつお美術館で「アガサ クリスティー展」が始まっています。 春の一日、ひつじも訪ねてみようと思います。aries

「アガサ クリスティー展」  3月17日~6月13日  10時~17時半  相田みつお美術館第2ホール  月曜休館、ただし祝日、振り替え休日の場合は開館

  http://www.mitsuo.co.jp/museum/index.html

 

2010年2月24日 (水)

インパラの朝

「第7回 開高健ノンフィクション賞」受賞作品です。shine

26歳、貯金180万円で、単身ユーラシア、アフリカ大陸を踏破した中村安希さんの、見たまま感じたままの記録です。shoe アジア 、中東、アフリカからヨーロッパを抜け、ユーラシア大陸の最西端であるポルトガル、ロカ岬で旅を終えるまでの2年間、想像を絶するほど過酷であったはずの旅は、硬質な透明感のある文体で淡々と綴られています。think 

もし、この本を手にされることがあったら、著者の写真を見てください。 華奢で美しい彼女の「目」がすごいのです。 強靭な意志が見てとれます。punch 

中国で、すし詰めのゴキブリ列車に41時間立ったまま揺られたり、パキスタンで、夜行長距離バスを待つ間 高い塀に囲まれ建物に閉じ込められたり(実は、著者の信じた通り、外敵から彼女を守るための好意だったのですが)、意識を失うほどの体調不良の中、灼熱のサバンナをトラック乗り継いで移動せざるを得なかったり、これでもかとばかり過酷な状況におかれます。 それでも、彼女はあらゆる苦難に身をゆだねて乗り切っていきます。

 テロリストの集まりと思われている国で、普通の人々に厚いもてなしを受け、貧困の実態に向き合あおうと訪れたアフリカの国々で、人の気持ちの豊かさに触れるとともに、日本の援助の不毛さに疑問を持ちます。think 

泣いたり笑ったり喧嘩したり、カリフォルニアの大学時代 無口な学生だった彼女は小さなからだに沢山の経験を詰め込んで、ぶれない軸をひとつ勝ち得たようです。flair

文中に書かれているように、彼女が見て、書いたものはあくまで彼女の私見によるもので、それをすべてと言っているわけではありません。 けれど、国に関係なく、地道に生きている善良な人々、援助という名目のもと、誇りを失った人々の哀しい現実を伝えずにはいられなかったのだと思います。pen

この若さでこの文章力!  読み終えてからも、何度も手に取りたくなる一冊です。aries

   「インパラの朝」  中村安希著   集英社  1575円

   「安希のレポート」 http://asiapacific.blog79.fc2.com/    更新中

  追伸  ついつい遊び心でキティラーに変身。  しばらくこの背景でお笑いくださいheart02

2009年6月12日 (金)

リビアの小さな赤い実

もうしばらく前になりますが、「リビアの小さな赤い実」(ポプラ社)という本を読みました。

作者はヒシャーム・マタールという、今はロンドンに暮らしている1970年生まれのリビア人で、特殊な政権下、時代に翻弄された家族を描いた半自伝的小説です。

リビアの外交官だった彼の父は、反政府主義者と目されて身の危険を感じたため家族を連れてエジプトに移住します。

ところが、その後リビアの秘密警察につれもどされ、1995年以降は生死もわからない状態が続いています。

そんな過酷な当時のリビア(今もって過酷なのかもしれませんが)を描きながらも、詩人であるヒシャームの文体は美しく、静かに物語は紡がれていきます。

まだまだ平和な日本に暮らす我々には、独裁政権下のリビアなど想像を絶する世界です。

でも、どこにもあたりまえの人々の日々の暮らしがあり、共通する想いがあります。

イスラムの世界はどこも一様に戒律が厳しく、私達とは遠く離れた思想の人々が住んでいると思いがちです。

けれどもこの小説の登場人物達には違和感なく感情移入ができます。

哀しくつらいお話ではあります。

ただ、あまりに美しい文章が先へ先へと読ませます。

イランのイスラム政権下の日々と自身の留学生活を綴ってアニメーション映画にもなったマルジャン・サトラビ(フランス在住のイラン人漫画家、絵本作家)の「ペルセポリス」と共に大きな感銘を与えてくれる一冊だと思います。aries

最近のトラックバック

2015年7月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31